今日もルノアールで

ルノアールで虚空を眺めているときに更新される備忘録

その声が聞きたくて

久しぶりにゲームにハマっている。幼い頃からゲームは大好きだったし、小中学生の頃などは、毎週『ファミ通』『電撃PlayStation』などのゲーム誌を購入するほど、ゲームを欲していた。クリスマスや誕生日などの祝い事のときは必ずゲームソフトを買ってもらっていたし、夏休みの家族旅行には旅先までGCを持っていき、「旅先の旅館でプレイするパワプロくんほどおもしろいものはない」と思っていた。

しかし、高校大学と進学するにつれて、ゲームをする機会はめっきりと減っていき、社会人になってからは、たまに気になるゲームソフトに手を出してみては、すぐにやらなくなった。テレビをつけ、ハードを起動すること自体が億劫になっていた。もう自分がゲームに熱中することはないのかもしれない。大人になったような、なってしまったような、少し淋しい気持ちだった。

それが今、僕はオンラインゲームに熱中している。それも、ゲームをプレイしないと寝床につけないほどに。

そのゲームの名前は『フォートナイト』。このゲームはTPSと言われるジャンルのゲームらしく、簡単に言うと武器を集めて敵を殺す、それだけだ。『ギアーズ・オブ・ウォー』とか『ヘイロー』とか、そのあたりのお仲間だ(たぶん)。あんまりテレビを観ないから知らないけど、CMにはTOKIOが出演しているらしく、日本だけでなく世界的にも今最も流行しているゲームの一つということらしい。

きっかけは、会社の同僚に誘われたこと。これまで「ゲームは一人でやるもんだ!」と、オンラインゲームには手を出してこなかったけれど、ゲームから遠ざかっていたおかげで、そんなポリシーとは無縁になっていた。

誘われるがまま、やってみると、無論、すぐ死ぬ。下手したら5秒で死ぬ。実際のプレイ時間より、プレイ開始を押してからの待ち時間の方が長いことなんてザラだ。必死に体力を増加できるポーションを集め、武器もせこせこと集め、いざ決戦に臨んだら集めた武器を一度も使わず、一発で死ぬ。しかも、死んだら復活しない。コンティニューという概念は、このゲームに存在しない。

RPGばかりやってきた自分にとって、これはひどいカルチャーショックだった。救いがなさすぎる! やーめた。と思ったけど、同僚が誘ってくるから、なんとなく続けることにした。オンラインゲームって、プレイ中に会話できるから、ストレスのガス抜きになるのな。下手なカフェより、オンラインゲームの方が全然サードプレイスとして優秀なんじゃなかろうか。そんなことを思いながら、ひたすら死に続けた。ただの一回も相手をキルすることができないまま。

しかし、そのときは、突然に訪れた。「フォートナイト」には、ピストルからショットガン、ライフルまで多種多様な武器が登場するけど、僕が初めて相手を殺傷したのは「くっつき爆弾」。通常の爆弾と違って、ぶつかった箇所にくっつき、3秒後ぐらいに爆発するっていう代物。だいたいは相手が隠れている建物なんかを壊すときに使うんだけど、僕は1対1の状況で相手に向かって投げた。そしたら、相手にくっついた。爆発した。一発で死んだ。画面には真っ赤な文字で「down」的な文字が踊っていた。頭の中が真っ白になり、同僚から「ナイス!」と声をかけられた。僕は「フォートナイト」にのめり込んだ。

はて、自分は「フォートナイト」の何が刺さったのか。相手を殺す快感? 殺るか殺られるかのスリル? どれも違う。ただ僕は「ナイス!」が聞きたいだけなんだ。

思い出してみてほしい。あなたは、最近いつ人から「ナイス」と言われた? 言われてないでしょ。僕が思い出せるのは、中学のサッカーの時間。わけもわからず蹴り出したボールが、奇跡的にサッカー部の足元に転がり、「ナーイス!」と言われたときのこと。そのときも思ったけど、「ナイス!」という言葉には圧倒的かつ裏表のない肯定の響きがある。なんだか、自分がすごく良いことをしたような気分になれる。なのに、大人になると誰も言ってくれない。それが、「フォートナイト」をやるとナイス言われ放題。今夜も僕は、同僚からの「ナイス!」を聞くために戦場に向かう。